借金の返済に追われる日々……。「もう返せない!」そんな時はどう考えればいいのか。

「借金」や「自己破産」と聞くと、「自分には関係ない」と考える方が多いのではないでしょうか。

一般的には、ギャンブルにお金をつぎ込み、首が回らなくなった人が自己破産をしているというイメージがあります。確かに、ギャンブルや浪費で借金を重ねる人もいますが、自己破産の原因の多くは、事業の失敗や失業、病気です。もしくは誰かの保証人になったことが原因になるケースもあります。そうした窮地から脱するためにギャンブルに手を出してしまう人は多いのですが、はじめから賭け事につぎ込んで借金を重ねている人はあまりいません。

しかし、「自己破産」に対する悪いイメージが先行し、抵抗を感じて相談するのが遅れる方も多くいらっしゃいます。早い段階で弁護士などに相談すれば解決できるものでも、時間が経つに連れて問題が深刻化してしまいます。本記事では、破産を中心とする倒産手続きについてお話しします。

借金の解決方法

複数の業者から借金をしていて返済が困難になっている状況を、「多重債務」と言います。これを解決するには「破産」「民事再生」「任意整理」があります。それぞれの手続きには特徴があり、借金をしている人の事情に応じて選択します。以下では手続きの内容と選び方を解説していきます。

破産とは

「破産」とは、債務者(お金を借りている人)又は債権者(お金を貸している人)が、裁判所に申し立てを行い、裁判所が破産手続きの開始を決定すると、債務者は、その時に自分が所有している財産の中から生活に最低限必要なお金のみ自分のもとに残せますが、それ以外の財産については、裁判所に提供しなければならず、提供された財産は換価され、債権者に公平に配当されるという手続きのことをいいます。

破産手続きが終了して裁判所から免責の許可が下りると、債務者は借金の支払いから解放されます。債務者にとって、破産は最も有利な借金解決の方法です。そのため、債務者から相談を受けた弁護士は、まず「破産できるかどうか」から考えます。

一方で、多くの人はなるべく破産せずに、できる限り払おうというところから考えます。「借りたお金を返さなくては」と考えるのは道徳的には大切ですが、お金の工面がどうにもならないときはあります。生活の再建を考えると、破産して借金を免責することも選択肢の一つではあります。

ただし、「破産をすればすべての借金がチャラ」になるわけではありません。破産免責が取れても、一部の債権は免除されません。例えば殺人罪の損害賠償は、当然支払う必要があります。悪意を持った不法行為によって発生した損害賠償が免除されてしまえば、大変です。ほかにも、税金・罰金・子どもへの養育費も免責にはなりません。

それに、借金の大半が浪費で使ったお金であるような場合は、そもそも免責は認められません。不誠実な理由による借金まで免責していたら、破産という制度そのものが社会に受け入れられないからです。 破産を後ろめたいと感じる人もいると思いますが、破産は止むにやまれぬ事情で借金した人を救うための制度でもあります。もし、借金でどうしようもなくなったときは、検討してみてください。

民事再生(個人再生)とは

「民事再生」とは、原則3年間で借金の一部を返済する計画を裁判所に認可してもらうことで、借金を大幅に減額してもらうものです。

例えば300万円の借金のうち、100万円を36回の分割で払い、残りの200万円を免除してもらう、といったことになります。

後述の任意整理では債権者との合意が必要ですが、民事再生では、反対する債権者がいても裁判所は強制的に減額することができます。ただし民事再生は任意整理とは異なり、法的な要件が定められています。

任意整理とは

債権者と債務者で分割回数(3年から5年ほど)の変更や利息のカットについて交渉し、今後の返済計画に基づいて借金を完済する手続きを「任意整理」といいます。

破産や民事再生等、強制的な手続きを望まない場合や、一部の債権者にはどうしても全額支払いたい等の融通を効かせたいときに利用します。一方で債権者との合意が必要なので、借金の大幅な減額は難しくなります。

自分に合った手続きの選び方

ここまで破産・民事再生・任意整理について説明してきました。以下ではどのような場合にどの手続きを選べばよいのかを考えていきましょう。

  1. 経済的な状況

    一定の収入があり、少しずつでも返済できる(あるいは返済したい)場合は、民事再生や任意整理を選択することが多いと言えます。
    一方、債務者が無収入かそれに近い状態で返済金を用意できない場合は、破産を選択します。しかし、収入があっても返済が苦しいだろうと予想できる場合は、債務者に最も有利な破産を選ぶこともあります。

  2. 手放したくない財産がある場合

    破産すると、生活最低必需として99万円まで手元に残すことができますが、有価証券・預貯金などは、99万円を超える範囲ですべて差し出さなくてはなりません。また、住宅等の不動産は原則として差し出す必要があります。これらがお金に換えられ、債権者に配当されます。しかし、例えば破産を検討する方が「家族と過ごしたこの家だけは手元に残したい」と考える場合もあります。この場合は民事再生や任意整理を選択することになるでしょう。 民事再生では、一定の条件を満たせば「住宅ローンの特則」が使えるので、こちらも併せて検討していきます。住宅ローンの特則では、ローンはそれまで通りもしくは分割回数を変更するなどして全額を払います。これに対して、住宅ローン以外の借金については大幅なカットが認められ、それを払い終われば、残りは免除してもらえます。 ただしこの特則を使うためには、一定の条件が必要となり、基本的に安定した収入がある人でなければ使うことができません。
    そもそも、破産には「債権者を平等に扱わなくてはならない」という概念があります。この特則は住宅ローンを貸している銀行だけを優遇しているともいえるわけです。他の債権者からすれば「2000万の住宅ローンを返せるならこっちの借金返せ!」という話です。使える人を限定するのは当然といえます、 こうした不平等が、法律で認められている。「家」へのこだわりが強い日本だからこそ認められた特則と言えるでしょう。
    ちなみに、ローンを完済している場合は、住宅ローンの特則は使えません。ローンが残っていないのであれば、家は財産です。破産は債務が財産を上回るときに使われる手続きであり、家の価値が借金を上回る場合はそもそも破産の要件を満たしません。この場合は、家を売って借金を払うことになります。

  3. 借金の主たる原因がギャンブル

    借金の大半が浪費である場合は、免責不許可となり破産するメリットがなくなります。
    そもそも破産とは「もう払えません」と宣言することです。99万円から超過した財産を債務者が差し出し、その財産を換金して得たお金が債権者に配当されます。ただし、人によっては財産がほとんどなく、債権者が1円も回収できないこともあります。そのような場合は、破産手続きは速やかに終了して免責手続きに入ります。しかし、大半が浪費で借金を背負っている人は免責不許可となることがあります。そこで免責不許可となれば、払いきれなかった借金は残ったままです。裁判所の手続きが終わってからも催促されますし、払わなくてはなりません。このように、免責が取れなくては破産する意味がないので、この場合は民事再生を選択します。民事再生で借金の一部を払えば、残りの債務は免責してもらえます。 ただし、浪費による借金があっても、それが一部分であり、ほかは相応の理由による借金であれば、免責になることもかなり多いです。
    どの程度の浪費が一部もしくは大半を指すのかは難しいところで、法律ではっきりと決まっているわけではありません。その人の事情を加味しながら、最後は裁判所の判断で決まります。 例えばギャンブルで負け続けて、借金が結構な額になってしまった。だからと言って即時に免責不許可になるわけではありません。弁護士がギャンブルをするに至った経緯や事情を聞き、止むに止まれぬ事情だと考えられる場合は、裁判所に釈明することもあります。
    こうしたことから、中にはギャンブルによるたくさんの借金があっても「ダメ元で破産すればいい」と考える人もいます。もちろん破産手続きをして免責にならなかったら、民事再生でやり直すことも可能です。しかし、破産をして免責がされなくても、弁護士費用は必要です。結局は不利益になってしまうこともあるので慎重な考慮が必要であり、リスクを考えると、最初から民事再生を選択すべき場合もあるでしょう。

  4. 特定の職種に就いている

    生命保険外交員や警備員など、特定の職業に就いている方は、法律の制限によって、破産してしまうとその職を続けられなくなることがあります。そのようなリスクを避けて借金を整理したい場合は、民事再生や任意整理を選択します。

  5. 債務者が個人事業主である場合

    破産をすると事業用財産や売掛金も換金の対象となるので、事業を続けることが難しくなります。廃業してしまうとその後の生活も苦しくなるため、事業を続ける必要がある場合は、民事再生や任意整理を選択します。

  6. 債権者の一部を優遇したい場合

    勤務先や親族から借入しているなどの事情から、債権者の一部を破産手続きから外したいと希望される人もいます。しかし、破産と民事再生では一部の債権者を除外することは許されません。この場合、破産や民事再生よりも柔軟に調整することができる任意整理が選択肢となります。

  7. 借金整理に同意しない債権者がいる場合

    任意整理のためには債権者との合意が必要です。また借金の大幅な減額も期待できません。そのため、返済計画に応じない債権者がいる場合や、借金を減額したい場合は、裁判所が強制的に債務をカットできる破産や民事再生を検討することになります。

  8. 保証人がついている場合

    破産と民事再生の影響は、保証人に及びません。つまり債務者の借金が免除・減額されても、保証人はもともと決まっていた額を支払う必要があります。一方で、任意整理では債権者との合意が得られれば、その効力を保証人にも及ぼすことができます。保証人が債務者の親族であるなど、責任を軽くしたい場合は任意整理を選択する必要性が高まります (債務者が破産等を選択する場合には、保証人である親族についても同様の手続きを検討します)。

使うべきときは破産を選択肢に

借金を後ろめたく感じ、破産をためらう人が多くいます。しかし競争によって経済的な活力を引き出そうとする自由競争の社会において、すべての人が成功するわけではありません。失敗したときに救ってくれる制度がなければ誰も挑戦しなくなり、社会から活力が失われます。人道的な理由だけではなく、こうした観点から、経済の活性化のためにも、破産などの手続きは必要です。

また、「破産をするとブラックリストに載ってしまう」と心配される方もいます。しかし、破産に限らず民事再生でも任意整理でも、一定期間はブラックリストに載ってしまいます。受ける不利益は変わらないため、前述したように、弁護士は基本的に債務者にとって最も有利な破産から考えます。その後の生活再建を考え、「使うべきときは破産を使う」と思っていただければ幸いです。

関連記事

  1. お金のトラブルを未然に防ぐ 「保証人」「投資」「闇バイト」