お金のトラブルを未然に防ぐ 「保証人」「投資」「闇バイト」

今回は日常的なお金にまつわるトラブルを紹介します。お金のトラブルは、気づいた時には手遅れになっていることもあります。また、知らず知らずのうちに、犯罪に加担させられることもあります。

大きな損害を被ってしまわないよう、あらかじめ典型的なパターンを知り、回避しましょう。お金にまつわるトラブルの事例と、それに巻き込まれないための対処法を弁護士の視点から解説します。

親族に頼まれてお金を貸したら「返済は分割で」

金銭の貸し借りに関するトラブルは、当人同士が親しい関係や親族関係にあり、しっかりとした契約や明確な返済条件がない場合に特に発生しやすい問題です。

お金の貸し借りにおける契約は、「金銭消費貸借契約」といって、貸主と借主の間で「お金を貸します」「それを返します」という約束によって成立します。金銭消費貸借契約を結べば、たとえ1円の貸し借りであっても法的拘束力を持ちます。返さなければ契約違反となり、裁判になることもあります。

借り手に同情する事情があったとしても、金銭の貸し借りには慎重になりましょう。

例えば、Aさんが子供に心臓移植手術を受けさせるため、多額の費用を必要としており、その資金を親友のBさんから借りようとしています。このような事情では、銀行から融資を受けることは難しいでしょう。受けられたとしても、費用の全額をまかなうことができない場合がほとんどです。

そこでBさんはAさんの話を聞き、何とかAさんとお子さんを救ってあげたい一心で、相当な金額を無条件で貸してしまいました。後日、BさんがAさんに対して、「あの時に貸した○○万円を返してほしい」と伝えます。しかしAさんもすぐに返せるわけではありません。「今は一括では返せない。申し訳ないけれども、何十年かの長期間で返していきたい」と返答します。

Bさんはこの返答に納得できず、Aさんに「そんなことは聞いていない」と抗議します。しかし、このトラブルはお金の貸し借りを行った時点で始まっていました。そもそもBさんはAさんにお金を貸す前に、「本当に返済できるのか」を考え、返済の条件も細かく決めておくべきだったのです。

金銭消費貸借契約では、返済の条件を定めなければ、無利息一括返済が原則です。この事例では、AさんはBさんに対して借金を一括で返さなければならない義務があります。

しかし、Aさんも実際にない袖は振れません。当人同士の話し合いで決着がつかなければ、裁判所に判断してもらうことになります。裁判で勝った貸主は、借りた人の財産を探し出し、差し押さえることができます。しかし、実際にお金を回収できるかはわかりません。

結局は、貸す時点で回収できないリスクを見越して、契約する前から備えなければならないということになります。「条件を決めずにお金を貸すということは、お金をあげるようなものだ」という認識を持ちましょう。

安易に保証人になると重い責任を背負うことに

このような貸し借りのトラブルに関連するものとして、親友のために保証人になってしまった事例があります。

先の例でいえば、AさんがBさんからお金を借りた後、もしAさんが返済できなかった場合に代わりに支払うCさんのことです。CさんはBさんからお金を借りたわけではありませんが、Bさんと「保証契約」を結びます。このことにより、Aさんが返済できない場合に、CさんにはBさんへの返済義務が生まれます。

一般的に、この「保証人」の義務の重さが正しく理解されていません。例えばCさんとAさんが親族関係にある場合、Aさんが実際に返済できるかどうかを考えず、簡単に保証人を請け合ってしまうことがよくあります。Aさんが返済をせず、Bさんから返済を求められて初めて、Cさんは保証人の義務の重さを理解します。

「単純保証」と「連帯保証」

保証には大きく2種類あります。「単純保証」と「連帯保証」です。

AさんがBさんに返済できない場合にCさんが返すかたちを、「単純保証」と言います。本来お金を返すべきAさんにその財産がないときに、初めてCさんが支払う責任を負うものです。

ここが重要です。AさんとBさんが返済で揉めて、BさんからCさんにいきなり請求がなされた場合、CさんはBさんに「まず借りた本人であるAさんに請求してください」と主張できます。これを「催告の抗弁権」といいます。

そうしてBさんがAさんに請求し、それでも返済されず、改めてCさんに請求してきたとします。その場合であっても、CさんはAさんが財産を持つことを証明して、Bさんの請求を拒否することもできます。これを「検索の抗弁権」といいます。

このように、単純保証の場合には保証人も債権者に対して一定の主張をすることができます。

一方で、貸主にとって都合がいいのは「連帯保証」です。連帯保証人には、単純保証で認められる「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」がありません。このため、連帯保証の場合、保証人の責任は借主とまったく同じといってもいいほどに重くなります。実はAさんに支払い能力や財産があったとしても、貸主は直ちにCさんにも請求できるのです。

保証を悪用した闇金システム

連帯保証の場合、保証人の責任があまりにも重いということで、最近は法改正が進んでいます。また継続的な契約や上限のない契約を保証人に負わせないような規制もされています。

例えば将来発生する債務を保証する「根保証」というものがあります。これは法人の代表者を務める人が、自分が代表を務める法人の連帯保証人となるような場面で使われます。つまり社長が会社のためにお金を借りる際の保証人となるような、いわば借主と保証人が一体とみられるような場合に効果的な制度です。

根保証は、運転資金として限度額ぎりぎりでもお金を借りたいという、借り手側の事情が考慮されています。そのため、責任が重くても当然と考えられてきました。しかしこの根保証が、中小零細企業を主なターゲットにしたヤミ金の手口、「システム金融」に悪用されてしまいます。

1990年代から2000年代の日栄や商工ファンドの問題を中心に、社長の友達や家族・従業員といった会社の関係者までもが根保証の保証人となり、重い責任に苦しむ事案が発生しました。根保証は継続的な貸し借りを想定しているので、一度借金が返済されても安心できません。再度お金を借りてしまうと、保証人が知らないうちに責任が発生します。

それでも根保証に極度額が定められているのは良いほうで、以前は極度額のない根保証もありました。一度保証人になってしまうと際限なく責任を負う可能性があったのです。それに、極度額があっても高額に設定されている場合は、いくら弁済しても、利息分の返済にすらならないことも多く、さらに職場や家に乗り込むなど、強引な取り立ても横行しました。

こうした事件の裁判を通して法改正が進み、いまでは極度額を定めない個人の根保証契約は認められないとされています。

また従来、プライバシーの問題もあって、借主の情報を保証人が得ることには様々な困難があったのですが、現在では保証人に対する一定の情報提供についても法律で定められています。

いずれにしろ、保証人にはならないようにする

このように、法規制の対象になるほどに注意すべき保証(特に連帯保証)ですが、以前は広く行われていました。銀行でお金を借りる際は、少額でも連帯保証をつけるのが鉄則。不動産を担保にしても、個人の連帯保証とセットでした。

最近では法改正もあって、「少額なら連帯保証がなくても貸付できる」「価値のある不動産を担保として入れれば融資する」という流れに変わってきていますが、やはり用心するに越したことはありません。

よほど詳しい人でなければ、単純保証か連帯保証かの区別はつきませんし、どちらの保証であっても、保証人になることに対して慎重になってください。頼んできた人が親友であっても、親族であっても同じです。親しい人に「あなたには迷惑をかけないから」と言われれば、断りづらいと思います。しかしその言葉の実態は「迷惑をかけるのでよろしくお願いします」と同義だと思ってください。

複雑な金融商品を使った詐欺に注意

近年、「老後資金は2000万円以上必要」という考えが広まったこともあり、タンス預金から投資へとシフトする動きが見られるようになりました。

投資先は、株式、ビットコイン、賃貸マンション、FXなどさまざまです。さらにフィンテック(銀行や証券・保険などの金融分野にIT技術を組み合わせたサービス)を利用した、複雑な金融商品も生まれています。

また仕組みとしては簡単に見える投資対象でも、容易にアクセスできない情報を利用している金融商品もあります。例えば海外で行われている取引では、判断材料になる情報が外国語でしか発信されていないものもあります。

このように、投資には専門的な知識が必要で、一般の方には商品内容も利益と損失のバランスも理解しづらいものです。投資のトラブルは、売る側が適切な情報提供(元本割れのリスクや損失の程度の見込みなど)をしないことが原因の場合もありますが、売る側が正しい知識を提供しても、消費者が理解できていないことも多いです。

さらに投資に勧誘する側が、決定的に重要な情報を敢えて提供しない、もしくは実現不可能な利益を宣伝することも少なくありません。これではトラブルではなく詐欺、れっきとした犯罪といえるかもしれません。

しかし残念ながら、勧誘する側が巧妙な手口で誘ってくるので、詐欺に騙されて投資してしまう被害者は後を絶ちません。彼らは金融商品を正確に理解できずリターンを予測できない人を標的にしています。

いつの間にか犯罪に加担してしまうトラブル

最後に、お金にまつわるトラブルとして、自分が損をするだけならまだしも、犯罪に加担してしまうケースもあります。

いわゆる「闇バイト」の報酬につられ、いつの間にか違法な組織の片棒を担がされてしまう事件が起きています。例えば、海外から違法薬物を日本に持ち込む役目をさせられる、あるいは、新型コロナウイルスの持続化給付金を組織的に騙し取る作業をやらされてしまう、といったものです。

これらはいずれも犯罪ですが、違法な組織が高額な報酬を提示し、さらに犯罪行為であることに気づきにくくする誘い方をします。

一例として、持続化給付金の詐欺では、社会経験の少ない学生が利用されました。その結果たった数十万円の報酬のために、身柄を長期間拘束され、刑事裁判で有罪となってしまった事例もあるのです。

人はお金に釣られると、正常な判断ができなくなったり、通常であれば考えられないような意思決定をしたりしてしまうことがあります。これらの事例は、そういった人の心理を利用して犯罪の片棒を担がせたものです。引っかかってしまえば、お金を失うだけではなく人生そのものが狂ってしまいます。

リスクを感じ取り、行動する前に弁護士に相談しよう

この記事では、お金にまつわる典型的なトラブルをお伝えしました。みなさんがお金にまつわるリスクを感じ取り、メリットとデメリットを十分に検討できるようになれば嬉しい限りです。

目の前のお金に釣られない、人に言われてもすぐに実行しないように注意してください。トラブルが起きてしまった後で、なかったことにはできません。「自分の判断だけでは心配」であれば、弁護士への相談を通じてお金と上手に付き合っていっていただきたいと思います。

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